治療の結果の障害 未診断と無支援 大手化学メーカー勤務 Yさんの場合

 仕事があまりに忙しくて、うつ病になってしまったんですね。精神科の先生に少し休みなさいと言われて休職していたのですが、あまり良くならなかったのです。本でいろいろ調べた結果、うつ病の治療に電気けいれん療法があることを知りました。保険適用ですし、実施件数も多く、安全性が高いということで、安心してその治療を受けました。その治療は、普通は12回ぐらい受けるんですけど、1回目で記憶が全くできなくなってしまったんです。人と会話をしても、その人が私に何を言っているのかが、全然頭の中に残らなくて、会話にならないんです。それで怖くなって、治療を中止して退院しました。 今では、記憶は少しずつ戻ってきたんですが、認知と言いますか、頭の働きが良くならないんですね。人と話をしていても、何を言いたいのか把握しにくく会話が難しいんです。仕事で、知恵を絞ってアイデアを出す力なども弱くなって、自分の意見も言えないなどの症状は、2年経った今でも残っています。
 確かに電気けいれん療法を受けるときには「一時的に記憶が低下することがあり得る」という説明を受け、同意書にサインをしましたが、こんなに残存するとは思っても居ませんでした。施術後、主治医に症状を伝えたのですが、「そのうち良くなりますよ」「気にしすぎです」と、避けられたような対応でした。私は、責めたいわけではなくて、どうしたらいいのかアドバイスが欲しかっただけなのですが、病院としては電気けいれん療法との関係を認めたくない感じで、親身に今後のことを聞いてくれる感じでは全くなかったです。「うちの病院に何をしてほしいの?」と。そこで、別の病院に行って検査を受けました。明らかに検査結果が悪かったにもかかわらず、何も言ってくれませんでした。
 自分でネットや本で、色々調べていって、高次脳機能障害という言葉を知りました。あ、自分の症状はこれだ、と思いました。そこで、脳画像検査も受けたのですが、何も器質的な変化がなかった。症状としては、自分に高次脳機能障害であると確信しているのですが、診断はつかないんです。
 今の職場にも説明しました。でも、実際はどういうことなのか、理解してもらうのは難しいようです。特に苦手なのが、新しい情報を覚えることですね。資料や本を読んでも、なかなか頭に入ってこないですね。特に、耳からだけの情報はてきめんですね、聞いたことを引っ張り出せないんです。「あれどうだった?」とか急に聞かれると、答えられないので、常にノートを持ち歩いています。何が一番つらいって、コミュニケーションですね。これが弱くなったのは、本当にきついです。この脳でどうやって仕事をしていくか対処するしかないので、同じ症状の人の情報など、どんな小さなことでもいいので探しています。今でも、どうやったら良くなるのか、回復方法を知りたいと思っています。

専門家による寸評

言語聴覚士西村紀子

 高次脳機能障害者や家族の人が、手が震えるほど、声を詰まらせるほど、怒りに駆られるのが、障害の見過ごし、未診断の問題である。今回、取材した Yさんのケースも、うつ病に対する電気けいれん療法の結果、記憶障害となった。しかし、医師は「気にしすぎ」の一言でまったく取り上げない。このヒアリングを聞いた鈴木大介さんは、怒りでインタビュー前に震えていた。医療過誤という言葉があるが、なぜ未診断問題は仕方がないで...

専門家による寸評

文筆業鈴木大介

 訴える不自由のエピソードは、脳血管障害後の高次脳機能障害である僕と全く同じ、そしてこのヒアリング事業でも作業記憶の障害のある当事者から何度も聞き取った「いま聞いたばかりのことを、頭に留めおけない」「聞いた先から忘れてしまう」というもの。たとえ画像所見として診断基準に満たないとしても、Yさんは間違いなく「聴覚情報の記憶の把持という高次な脳機能」に障害のある、高次脳機能障害の当事者です。
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インタビュー記事

高次脳機能障害という診断が下されない過酷ケース

どんな医療にもリスクはあるものですし、だからこそ治療の前に同意書を交わすといったこともあります。でも、もしそのリスクに抵触してしまったり、強い副反応・副作用や後遺症が残ってしまった場合、それを最大限フォローするのもまた、医療の義務なのではないでしょうか。
Yさんは、うつ病の治療で保険診療の適用対象にもなっている「電気けいれん療法」の結果、主に記憶障害を中心とした高次脳機能障害を発症した、稀なケースです。けれど医療からまともなフォローアップを一切受けることができず、高次脳機能障害という診断すら下されず、そのまま自助努力のみで日常復帰・職場復帰を強いられている、大変過酷なケースでもありました。

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